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139: 創る名無しに見る名無し:2010/10/21(木) 19:16:55 ID:0MZ+TgiD

ある日、アール博士の研究所に、友人のエヌ氏が招かれた。 
エヌ氏は研究所内を見て回り、そしてある部屋にたどり着いた。
エヌ氏は不思議そうな表情を浮かべて言う。 

「この部屋にはレバーしかないようですが」 
「はい、レバーだけです」 
「このレバーを引くと何が起こるんですか」 
「何だと思いますか」 
「うーむ。わかりませんなあ」 
「もし当てることができたなら、大金を差し上げましょう」 
「それは本当ですか。では当てて見せましょう。うむむ……」 
 エヌ氏は腕を組み、悩んだ。悩んだ末に出した結論は、「部屋拡充装置」。 
 しかし、アール博士は首を横に振った。 

「残念ですな。ハズレです」 
 だが、エヌ氏は悔しそうな素振りを一切見せなかった。 
「博士の発明品は奇抜ですからなあ。考えるだけ時間の無駄だったかもしれません。で、正解は何なのですか」 
「それでは、お教えしましょう。なんと、これは幽霊発生装置なのです」 
「ほお、実に面白いですな。ところで、この装置はどういった時に使うのですか」 
「心霊屋敷や、あまり人を近づけたくないような廃墟での使用が目的ですかな」 
「なるほど。既に商用化を見越していらっしゃるんですね」 
「ただ、まだ実験さえしていない状況なので、実際にどのようになるのかは神のみぞ知るということなのです」 


「では博士、ここは一つ私で実験してみてはいかがですか」 
「なに。客人を実験に巻き込む訳にはいきません」 
「いいじゃないですか。客人たっての希望なんですから」 
博士は腕組みをし、顔をしかめた。 

「では、約束して下さい。何が起こっても自己責任ということで……。
無論、万一何かが起これば、我々が全力であなたを助けます」 
「分かりました。いやはや、博士の実験台になれるとは真に光栄ですなあ」 
エヌ氏は、まるで子供のように目を輝かせた。 

「では、私は部屋の外で助手とモニターしています。準備が出来次第、お声をかけますので……。それと、この懐中電灯をお持ち下さい。部屋を真っ暗にするので」 
かくして、実験の準備がなされた。 

エヌ氏は期待に胸を膨らませ、懐中電灯を片手に今か今かと待ち構えていた。 
「準備が完了しました。ではそのレバーを下に引いて下さい」 
それきたと言わんばかりに、エヌ氏はさっとレバーを引いた。
すると、部屋が真っ暗になり、どうも気味の悪い雰囲気が漂い始める。 

「む、何かの気配がするぞ。早速、幽霊のお出ましか」 
 懐中電灯を四方に向ける。が、まだ何も出てはこない。 
ふと、背筋が寒くなった。 
「コロシテヤル……」 
突然の冷ややかな声。反射的に後ろを振り向くエヌ氏。 
「うわああああ!」 
エヌ氏は恐怖のあまり絶叫し、その場で倒れて気絶してしまった。 

これを別室のモニター越しに見ていたアール博士と助手が、急いで実験室に駆け込み、エヌ氏に駆け寄った。 
「おい、しっかりするんだ。おい」 
その声に、エヌ氏は意識を取り戻した。 
「う……は、博士……」 
「大丈夫かね」 
「いえ、まさかあんなリアルなものだと思いませんでした。
博士の実験の凄さを身をもって知りましたよ……」 

アール博士に頭を抱えられながら、淡々と話すエヌ氏。 
「あの髪の長い女。殺してやるなんて言って、私のことを物凄い形相で睨み付けて……今思い出すだけでもおぞましい。あまりにも現実的で、予想だにしないリアルさだったので、この有り様です。本当にすみませんでした」 
それを聞いたアール博士と助手は、顔を見合わせた。 

「どうかしたのですか」 
「いやね。さっきの実験、実は失敗だったのです」 
「はい、私のせいで……」 
「いえ、あなたのせいではありません」 
涙ぐむエヌ氏を見つめながら、アール博士は続けた。 

「実は、システムがエラーをはき、装置は起動すらしていなかったのです。それに、そのような女性はプログラムには含まれていません。あなたは、きっと悪霊か何かに取り憑かれているのでしょう。一度、祈祷師に見てもらった方がいい」 


引用元:https://5ch.net/