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48 :創る名無しに見る名無し:2012/03/18(日) 00:08:38.27 ID:sVHyPQwe

「ねえ、ゲームをしようよ」 
と、男。 
白い部屋、細い手首。 
「ええ、かまわないわ」 
と、女。 
黒い長髪、太いチューブ。 
「今から君にメモを渡すから、そこに一文字足して、また僕に渡すんだ。その繰り返し」 
と、男、何かを探っている。 
かさかさ乾いた音を引き連れて。 

「面白そうじゃない、でもそれ、終わらないんじゃないかしら」 
と、女、髪を軽くかきあげる。 
「終わらなくて、いいんだ。じゃあ、僕から」 
その男の声のように薄くすすけたしきりから、頼りない細い手首が伸びる。 
すこしシワのついたその小さな紙をうけとると、そこには「あ」の文字。 
「一文字、足せばいいのね」 
女はテーブルの上からえんぴつを取り出す。 
静寂の白に、カリカリと何かを削るような音だけが響く。 
「これで一回、ね」 
女、紙を畳んで男に差し出す。 
ぱさり、と、仕切りのたわむ音。 
「どれどれ。おや、君も同じ事を考えていたのかい」 
男、どこか悲しげにつぶやく。 
「思えば、君とは永い付き合いだな」 
男が女に紙を回しながらふいに呟く。 
「今更なにを言ってるのよ」 
「君となら、」 
静寂。 
「君となら、結婚してもいいかな、なんて。ね、思ったんだ」 
女、すこし動揺したのか、くしゃりと紙を握る。 
「馬鹿」 
足された文字は「が」のひともじ。 
女は、そこに繋がるであろう一文字を足して、男に回した。 
その女の手首の細さは、男と大差なかった。 
「あなたは、酷いひとよ。せっかく全て諦めて、ようやくそろそろ無になれそうだった私に、また生への執着に火を付けたんだもの」 
女の、今までにないほど、冷たい声。 
「そうだな、でも僕はそれだけの罰をきちんとこれから受けるつもりだ、勿論」 
かさかさ鳴る紙にえんぴつを滑らせながら男は笑う。 
「だからね、それが一番許せないのよ」 
男の細い手首が伸びる。 
女はその男の手の甲のようにくしゃくしゃな紙を受け取り、広げる。 
「えっ、"さ"っ、てなによ。ふつう、そこは」 
男の手は、女の手を握るような素振りをみせ、力なく落ちるように離れていった。 


とある看護師が、無人の二人部屋で妙な紙くずを拾ったという。 
"ありがと さ" 


引用元:https://5ch.net/